「アムスタイル」代表
清水克一郎さん
キッチンを中心にアムスタイルブランドの住宅プロデュースも手がける。オフィスは東京・代官山
https://www.amstyle.jp
インテリアデザイナー
村口峽子さん
駒沢女子大学教授。村口峽子デザイン事務所・DUO主宰。店舗や住居のインテリア、創作家具など生活者の視点から快適で美しいデザインを行う
家族みんなが忙しい現在、リビングのソファでくつろぐシーンに、かつてのような現実味はなくなってきました。代わって「食べることが、家での生活の中心になってきたようです」と、インテリアデザイナーの村口峽子さん。
「ご飯を食べていると自然と話もはずみます。キッチンは今、家族をつなぐものとして住まいのセンターに位置しつつありますね」
料理をつくることもまた、”家事労働”から、夫婦や親子、友達など”みんなで楽しんでする作業”へと変わってきました。LDと一体化したキッチンなら、家族みんなが気軽に家事に参加できます。一人で洗い物などをしていても、家族がすぐそばに感じられて孤独感はないでしょう。そもそもLDKがひとつながりですから、空間自体が開放的。一家団らんのカギはキッチンを主役にしたリビングづくりにありそうです。
キッチンを部屋全体が見渡せる位置に配置。
壁から離したアイランドキッチンにすると家族みんなで囲んで料理ができ、ふだんの動線もスムーズです。
キッチンにカウンターテーブルを設けてカフェ風に演出。軽食をとったり、お喋りしたり、使い勝手がグンとよくなります。LDには幅広く対応できる大テーブルをひとつ。
キッチンカウンターとダイニングテーブルをひとつにした例。作業している横で、家族は食事のほか趣味や勉強などいろいろでき、ソファを置けばリビングのくつろぎも得られます。
L字型のペニンシュラ(※)や収納でキッチンスペースを大きく確保。広さを生かし、家族や友人など大勢集まっての作業にも、家族それぞれが好きなところで好きなことをする過ごし方にも対応。※ペニンシュラ型=キッチンの一部が半島のように壁から突き出ているもの
どんな雰囲気にしたいのか、インテリアイメージを固めるところからコーディネートは出発します。「モダン」「クール」「ナチュラル」などキーワードから考えてもいいし、テーマカラーを決めて展開させてもいいでしょう。
「ファッションと同じです。好みがあって、流行があって、自分らしさが表現できるものを選んで全体をまとめていく。お気に入りのセーターやアクセサリーをもとにすることがあるように、キッチンのスタイルから発想してもいいと思いますよ」(村口さん)。木やタイルなどあったかい素材でなじませたり、オールステンレスでファクトリー調にしたり、自分たち家族が楽しめる空間に演出します。
ただし、「メインになる色は2色、せいぜい3色までに抑えたほうがバランスがいい」と村口さん。「カーテンも壁の一部ととらえるべきで、ベースカラーにするのが無難。柄のカーテンや濃い色の床を上手に使えるのは上級者です。冒険したいなら、アートやクッションなどで遊びましょう」
室内をすべてホワイトで統一
キッチンも内装材も、室内をまっ白に統一した例。取っ手のない収納扉や水栓金具などどこまでもシンプルなデザイン(アムスタイル)
アクセントカラーをキッチンに使う
鏡面仕上げが鮮やかなブルーのキッチンと収納を、室内のアクセントとして配した例。ラウンド形状のカウンターにも表情が(ヤマハリビングテック「ドルチェ」)
シック&モダンなキッチンを中央に
オールメラミンの扉に重量感のあるメタルハンドル。シックでモダン、かつコンパクトなキッチンをLDKの中心に基地のように置いた例(トーヨーキッチン&リビング「PORTO」)
自然光が似合うナチュラルテイスト
白っぽい塗装の木製扉がしゃれているソフトカントリー調のキッチン。温かみのあるタイルの床と合わせて(TOTO「キュイジア」)
明るくさわやかなマイキッチン
フレッシュライムのキッチンがLDK全体を明るく軽やかな印象に。白を基調に、カラフルな小物使いを効かせている(パナソニック電工「アイデコ」)
内装材のうち「部屋のイメージを支配するのは床材で、キッチンとの相性でもっとも気を使います」と清水さん。「壁はたいてい色で合わせられますが、床はフローリングかタイルかなど、質感が大きく影響します。キッチン選びと並行して考えるべきでしょう」。
村口さんも、ポイントは床だといいます。「そもそもキッチンは作業場。リビングとは使われ方が違います。機能を考えれば、水や汚れに強い内装材、例えば床ならタイルやリノリウムなどが向いており、キッチンとリビングで床を張り分けてもいいと思います」。
ひところはフローリングが全盛でしたが、イタリア家具などシンプルモダンの流行で、今はタイルや天然石など硬質な床材も人気。「全面をタイルにしてリビングまわりにカーペットを敷いてもいいですね」(村口さん)。床材は白やベージュなど淡く明るい色に失敗がなく、部屋も広く見えます。
壁材はクロスが一般的ですが、漆喰や珪藻土など塗装も表情があって好まれます。クロスにはビニールクロスのほか和紙や珪藻土、不燃織などを使った自然素材系があり、色柄ともに豊富。リビングキッチンであれば、消臭や抗菌など機能性も考慮するといいでしょう。どこか一面にガラスブロックやタイルなどをあしらい、アクセントウォールにするテクニックも。
御影石の床と木のキッチン
床を黒の御影石にして和モダンに。柾目のオークのキッチンとの取り合わせが絶妙(アムスタイル)
キッチン側は水や汚れに強い床材
キッチン側は木質床材だが、オレフィン系樹脂の化粧シートで熱や水に強く、シリコーン配合の塗装で汚れや傷、へこみに強い(パナソニック電工「オーマイティフロア シグノ」)
食事を中心に、家族でいろいろな使い方ができるリビングキッチン。複数の照明を組み合わせる「一室多灯」で、目的に応じた明かりをつくりましょう。シーリングやダウンライトなどをベースに、ブラケットやスタンドなどを配します。「キッチンは作業中は明るく、食事中は暗くできるように、リビングとスイッチ系統を分けておくといいですね。キッチンの照明はダクトライトもおしゃれです」(村口さん)
また、人は「夜になるにつれて低い照明がほしくなる」とか。「テーブルで食事をとったり、床に座ってくつろいだりと、座位が多くなるんです。照明の位置が低いほどその場の雰囲気が和むもので、フロアライトの光は落ち着きますよ」。スタンドもひとつあると重宝して、スポット的に照らしたり、壁や天井を照らして間接光を得たり。光の方向が自由になるようヘッドが回るとベターです。
一般に、くつろぎに向くのは白熱灯とされていますが、「今は蛍光灯にも電球色などやさしい光があります」と村口さん。「ランニングコストでいえば蛍光灯が経済的。あとはアクセントとしてハロゲン球(※)やLED(※)の光源を採り入れ、光を楽しんではどうでしょう」
※ハロゲン球=小さくて眩しく、ものを美しく見せるディスプレイ等の演出に向いている
※LED=発光ダイオード
スタンドで天井や壁を照らす
スタンドを部屋のコーナーに置き、手元を照らしたり、間接照明に使ったり。目的に合わせて照明ユニットを回転させ、位置も上下に設定できる(コイズミ照明「D.D.-pro ATN 560-041」)
キッチンの上をダクトライトで明るく
ダウンライトをベースにキッチンカウンターやテーブルの上をダクトライト(※)で明るくした例。調光器付きのダウンライトと角度が自在なスポットライトで雰囲気をさまざまに変えられる(アムスタイル)
※ダクトライト=天井に直付けしたレールの照明
窓の量にもよりますが、ワンルームのリビングキッチンは収納に充てられる壁面が限られます。「隣接してパントリーを設けられれば理想的。あるいは、キッチンの背後にクローゼット型の収納をつくりつけても。大きな引き違い戸が数枚の扉で、壁と一体化して見えるようにするとすっきりします」(村口さん)清水さんも、「隠す収納の場合、外から何が入っているのか分かってしまっては意味がない」と言います。その代わり中はきちんとつくりこみ、冷蔵庫や家電、ゴミ箱も扉の中に。もちろん、キッチンとそろいの面材や家具調の収納でもインテリアとして完成します。オープン棚に物を並べていく収納も、いい意味での生活感があって楽しいでしょう。
キッチンまわりの大型収納に物を収められれば、リビング側は「見せる」収納でも。システム収納はユニットが豊富にそろいます。
家具のようなキッチンクローゼット
キッチンを包み込むように配置され、コーナーも無駄なく使える「キッチンクローゼット」。50種類の組み合わせが可能(サンウエーブ「センテナリオ」)
「見せる」リビング収納
大型TVにも対応するシステム収納。スケルトンの扉が軽やか(DAIKEN リビング収納「iNOMA」)
ソファやテーブルなどの家具は、テイストに加えてサイズをよく検討する必要があります。大きすぎて家具に占領されているような室内では圧迫感があるでしょう。
一般に、部屋が狭い場合はソファでも収納でも低い家具を選んだほうが広く見えるというセオリーがあります。しかし、「広さがないリビングキッチンの場合、あまり低くしないほうがいいんです」と村口さん。「12畳~15畳ぐらいのワンルームで、立ち作業をするキッチンと座ってくつろぐリビングの家具に高低差がありすぎるとバランスが悪くなります」
村口さんのおすすめは、キッチンとつながった広いテーブルに、ダイニングチェアより背の低いイージーチェアの組み合わせ。
「チェアをパラパラと置いて好きなところに動かして使い、リビングのようなダイニングをつくると素敵ですよ
アームチェア「TIPTO」
ロンドン出身のピーター・エムリュス・ロバーツによる、50年代を彷彿とさせるデザイン(YAMAGIWA)
LDアームチェアデュオ
無垢材とヌメ革の組み合わせで抜群の座り心地。座面の高さは390mm(家具蔵)
大テーブルにイージーチェアの組み合わせ
広さのないリビングキッチンは、家具選びにひと工夫。キッチンにテーブルをつなげ、低いチェアでくつろげる空間にする