住宅ローンを利用してマイホームを取得する際、比較的多くの人が30年や35年といった長期の住宅ローンを組む傾向にあります。
定年退職などのリタイアを迎えるまでに住宅ローンの返済が終了するように返済期間を設定するのが理想ですが、毎月の家計収支の状況などを理由に、返済終了が60歳を超えるような返済期間で設定してしまう人も多いようです。それでも、途中で繰り上げ返済などを行うことで、最終的な完済時期を前倒しして、なんとかリタイア前に返済が終わるのであれば、返済自体は大きな問題にはならないでしょう。
しかし、リタイア後の生活を考えた場合、住宅ローンの返済と並行して老後資金の準備を行っていくことが欠かせません。というのも、老後の生活を根底で支える公的年金が、近年、ますます不透明な状況になりつつあるからです。今回は、ローンを組む前に最低限知っておくべき公的年金制度の基本的なポイントについてまとめたいと思います。
現在の日本の年金制度には、まずベースの部分として、20歳以上60歳未満のすべての国民が加入を義務づけられている国民年金(基礎年金)があります。これが、一般に2階建ての公的年金の1階部分といわれるものです。
国民年金は、20歳以上の学生や自営業者などが、第1号被保険者として2018年度は毎月1万6340円の保険料を支払っています。サラリーマンや公務員の場合は、第2号被保険者として2階部分である厚生年金の保険料の中から支払っていることになっています。そして、サラリーマンや公務員の妻など(年収130万円未満の被扶養配偶者など)は、第3号被保険者として保険料負担はありません。
国民年金に受給資格期間(原則10年以上)を満たして加入していた人は、65歳から老齢基礎年金を受け取ります。2018年度価額では、満額(40年間保険料を支払った場合)が年間77万9300円です。
さらに、サラリーマンや公務員の場合は、これの上乗せとして厚生年金があります。厚生年金は、働いていた期間の収入に応じた年金額になるので、人によって金額の違いはありますが、原則65歳から老齢厚生年金を受け取ることになります。老齢厚生年金のケースでは、1カ月あたり15万円前後が平均的水準のようです。
ちなみに、現在は、経過措置で60歳代前半に一部の年金額(特別支給の老齢厚生年金など)を受け取れるようになっていますが、生年月日に応じて受取開始年齢が引き上げられるようになっており、昭和36年4月2日以降に生まれた人(厚生年金加入者の女性だけ昭和41年4月2日以降に生まれた人)は、60歳代前半の年金は支給されず、原則65歳にならないと1円も年金が出ないということが確定しています。
したがって、一般のサラリーマン世帯(妻が専業主婦の場合)ですと、現在でも65歳以降に受け取れる年金額は夫婦合計で1カ月あたり22万円程度といわれていますので、その金額でリタイア後の生活を維持していくことが困難なのであれば、その不足額を事前に準備しておく必要があるわけです。
ましてや、現在20代・30代といった若い世代ほど、将来の年金額がいまと同じような水準を維持できるかどうかは不透明です。そもそも日本の年金制度は世代間扶養で成り立っています。若い世代の支払った保険料が、高齢世代の年金額として支給されているわけです。少子化や高齢化が止まらなければ、現在の制度を維持すること自体が困難だといわれます。そういう意味では、若い世代ほど、受取年金額は今後減らされていく可能性が高いと認識しておくべきだと思われます。
企業によっては、企業年金などで厚生年金の上乗せとなる制度を用意しているところもありますが、企業年金があるから大丈夫だと断定できるわけでもありません。やはり、老後にゆとりのある生活を送りたいのであれば、住宅ローンを組む段階で、ある程度リタイア後の生活もイメージし、老後資金の準備に支障を来さないような資金計画を立てることが重要だといえるでしょう。
イラスト/杉崎アチャ